遠隔授業のヒント

緊急事態宣言の影響で各大学が遠隔授業へと移行する中、そもそも遠隔授業というものを受けたことがない先生が多いのではないかと思います。私自身は一昨年、当時の非常勤先だった慶應義塾大学の土方巽アーカイブがMOOC(大規模公開オンライン講座)で講座を始めたのを機に、海外の複数のMOOCをチェックするようになり、教授法を中心に現時点で150時間分程度の授業を受けてきました。生徒としてオンデマンド授業を受けた経験が豊富な大学教員、というのは珍しいかもしれません。私が受講経験を通じて知ったことは、ひょっとすると他の先生方に役立つのではないかと思い至り、まずは生徒として気付いた2つのポイントをFacebookに投稿しました。直接接点のない先生方にももし有用な点があればと思い、ウェブサイトに転載します。

1.学生に選択の余地を残す(ハードルを下げる&受身的にしすぎない)
動画は自分のペースに合わせて止めたり、巻き戻したり、後で再視聴したりできるようにする
 生徒としての経験から、ボーっと聞いていたり忘れたりして後から内容を確認したいケースが頻繁に生じたので、過去の教材もアーカイブ化しておくと良いです。

視聴期間や課題提出期間を設定して、その期間内なら各学生が進度を調整できるようにする
 私が受けたことのあるオンデマンド講座は1つのトピックで1週間区切りになっていることが多く、1週間かけて少しずつ進めても、1日集中して一気に終わらせてもOKでした。
 動画やテキストは、大体1つあたり10分以内で視聴・読解できるよう分割されていました。5〜10分のビデオ+10分程度で読める読み物+小テストのセットがいくつかあり、それから課題提出とピア・レビュー(後述)、最後に確認テストで1課が終了というのがベーシックな印象です。

視聴必須の教材だけでなく、個々で選べる教材を一部用意する
 再生リストや選択肢からどれか一つを選び、視聴して答えるような課題は定番でした。普段の講義からすると「授業内では全員が同じものを視聴しているのが大前提、レポートなど個別課題だけが例外」という思考になりやすいですが、オンデマンド講座は常に個別課題のような状況なので、興味関心に基づいて選べるコンテンツを含むのが良さそうです。

2.担当教員の独力で組立てない(結果的に授業クオリティが上がる)
既存のオンラインリソースを最大限使う
 付け焼き刃で教材を作らなくても、オンライン上には無料で公開されている優れた教材がたくさんあります。これは上記の「選択できる再生リスト」と抱き合わせて使うこともできます。たとえば「日本音楽概論」を担当している私なら、「伝統音楽デジタルライブラリーで好きな日本の楽器を選んで、演奏を聴いて小レポートを書く」とか、「Youtube松竹チャンネルで配信されている歌舞伎の舞台映像のうち好きなものを視聴し、その中で使われていた演出方法を一つ取り上げて、文化デジタルライブラリーの「歌舞伎事典」・歌舞伎美人の「歌舞伎なんでも用語集」を使って説明する」というような課題を出せます。

ピア・レビューを積極的に導入する
 普段の教室とは違って学生間のコミュニケーション機会がなくなりやすく、理解度や意見を他の履修者と共有しにくい環境です。また、教員側は事前の動画準備が必要なので、普段の授業のように「前回のリアクションペーパーを授業内で紹介しつつ解説する」というような、学生の反応を即時に授業に反映させるスタイルがとれない部分もあります。とはいえ特に規模の大きい授業では、教員が全員の課題提出後すぐに個別にフィードバックするのは困難です。
 そのため、オンライン講座の多くの課題でピア・レビュー形式が採用されています。大抵のLMS(学習管理システム)は、学生の提出した課題を他の学生にも公開するか否か選べるようになっています。つまり、学生に「課題の提出」と「他の学生の課題に対する評価」をセットで課すということです。相互評価の方法は、教員がある程度用意する必要があります(チェック項目やコメント欄など)。私が受けた教授法の授業では、ピア・レビューに先立って教員によるルーブリック(明確な評価基準)の構築・共有が重要だと強調されていました。
 ピア・レビューが済んだものをさらに後の授業で教員が取り上げて解説すれば、教員からのフィードバックもでき、タイムラグが大分なくなるはずです。

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